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絵美は絵美で笹野の表情を読み間違えていた。
確かに明るい顔はしていなかったが、痛みに耐えての表情だと思い込んでいたのだ。
笑顔で話しかけて恐怖を感じるとは想像もできなかったので、そうとしか思えなかったのだ。
返事ができないだけで聞こえていると思い込んでいた絵美は、笹野が怖がっていることに最後まで気づくことはなかった。 笹野のもとに毎日通う絵美だったが、ずっと側にいたわけではない。
達也のお昼寝の時間を利用して病院に来ていただけで、我が子の側をほとんど離れることはなかった。
あまりの恐怖からか、達也はあの事故のことを忘れてしまっていた。
母がもう生きていないことを知らない達也は、幼稚園にいる時間以外はずっと側にいた母がいないことが不思議でならなかった。
「ねぇ、ママはいつ帰ってくるの?」
達也は不思議そうに父である博史に問いかけた。
まだ死がどんなものかも知らない達也にどう説明していいかわからず博史は達也をただ抱きしめ続けた。
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