藤宮 二子

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弟のクラス担任が 「今日はお休みかな?」 と聞いてきた。  あたしは弟がこれから来るのか来ないのか。そんなことは分からないから、首だけ傾げてそそくさと自分の教室に戻った。きっとそのうち母が連れてくるだろう。最近、弟は毎朝泣き、しかも一度泣くとなかなか泣き止まない。母はほとほと困り果てているから、諦めやら呆れやらで放っておいているのかもしれない。  あたしは自分のクラスに戻った。いつものように友達と遊んでいたら、弟のことなんかすっかり忘れてしまっていた。心配する気持ちもどこかにいってしまっていた。  学校から帰ると、いつもいるはずの母はいなくて、玄関の鍵がかかっていた。鍵を持っていないあたしは家に入れなかった。きっと弟は今日、学校を休んで、母と買物にでも行ったんだろう。そう思って玄関先で座って待った。斜め向かいのアパートに住む気持ちの悪いおじさんが二階のベランダからこっちを見ていた。 「早く誰か、帰ってこないかな…。おじさんがこっちに来たらどうしよう…」  でも、なかなか母は帰ってこなかった。おじさんの粘っこい視線と存在感のせいで、自宅の前なのに居心地が悪く、逃げ出してしまいたい衝動にかられた。そんな時、姉が母より先に帰ってきた。 「なんで? お母さんは?」 あたしをみると姉はぶっきらぼうにそう言った。ごそごそと流行りのバックから鍵を出す。玄関ドアを開けると自分だけさっと入ってしまったので、ドアが閉まらないうちにあたしもそのあとに続いた。  あたしは今朝あった出来事を姉に話した。「弟が学校をサボったんだよ!」 と、さも大きな罪を犯したかのように大袈裟な口調で言った。 「ふーん…」 姉は拍子抜けするほど、無感情な返事を残して、自分の部屋へ入ったきり、出てこなくなってしまった。  家の中にいつもいる二人がいないと家の中はしんと静かだ。この珍しい静けさがあたしは落ち着かなかった。胸の中にザワザワと嫌な予感が広がっていった。
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