藤宮 二子

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 あたしは支度を終えて弟に 「ほら、いくよ!」 と声をかけ玄関で靴を履いて待っていた。 「やだ! いかない!」 弟の泣き叫ぶ声。 「行きなさい! 遅れちゃうわよ!」 母のけしかける声が聞こえる。  それが何回も繰り返される。あたしはしばらくそのやり取りをうんざりと聞きながら玄関に座って待っていた。しかし弟はなかなか出てこない。あたしが学校に遅れるかも! とはらはらしてきた。  母は弟を抱えて玄関まで出てくると 「ほら! 二子(にこ)! ドア開けて出なさい!」と何も悪くないあたしを怒った。慌てて玄関のドアを開けて外に出ると、母は弟をドアの外に放り出し、弟の靴も素早く放り投げた。弟はさらに激しく泣き叫ぶ。 「お姉ちゃんなんだから、瑞光よろしくね」 そう言うと母は、ドアをピシャリと素早く閉め、カチャリと鍵を締めた。  冷たい音…。冗談じゃない! なんであたしが泣き叫ぶ弟を学校まで連れて行かなきゃいけないんだ! そう思うけど、放っておくわけにもいかず「いくよ!」とだけ声をかけて早足で歩いた。あたしも遅刻しそうなんだよ! 弟のせいで!  前を向いてずんずん歩くけど、泣き声は、ついてこない。  弟のことは気になったけど、遅刻して先生に怒られるほうが嫌だったから先を急いだ。 「お姉ちゃん、よろしくね」 と母に頼まれたけど、母は家に一日中いるのだから、弟のことは何とかするだろう。あたしはそのまま学校まで走った。  遅刻ギリギリではあったが、全力で走って、なんとか間に合った。安堵して額の汗を拭く。だんだん落ち着いてくるにつれて、弟に対して無性に腹が立ってきた。なんでこんなに大変な思いをしなくてはいけないのだ! 弟のせいで! 虫のいどころが収まらなくて、弟のクラスを覗きに行く。見当たらない。
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