千羽鶴

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   はるか以前から、重い病気で長期入院を強いられた患者には、その肉親や友達が見舞い品にと、病の平癒の祈りをこめた千羽鶴を贈るしきたりが日本には存在する。 だが正味な話、千羽もの折り鶴を実際に手で折っていく作業は骨であり、しんどいものである。 患者に申し訳ない話だが、よっぽど介護側に根強い気持ちが無い限り、投げ出したい気分にもなるであろう。 そこで一計を案じたとある技術者、自慢の頭脳とスキルを活用して、なんと機械仕掛けの『折り鶴作成マシン』を開発してしまった。使い方は簡単。所定の場所に折り紙をセットして、スイッチオン。これだけだ。 さすれば機械が動いて自動的に、一分ほどで鶴一羽が折れてしまうのである。 千羽鶴をこしらえたいのなら、セットする時間を省けば、最短千分、つまりおよそ十七時間の猶予があれば完成できた。 というか、できてしまうようになった。 しかしそんなことはもちろん世間の常識が許さない。 最初に作った第一号、折り鶴作成マシンはさっぱり普及しなかった。 理由は当然。「機械で量産される折り鶴ではありがたみがない」と患者側からクレームがあったからだ。 しごくもっともな話である。 しかしその技術者はめげない。一計を案じた彼はすこしの改良を加えて、再び世に送り出した。 結果、その第二号マシンは爆発的に普及した。 第二号マシンは第一号に比べて製造単価がものすごく高く、場所をとるので千羽鶴が欲しい人はそのマシンの設置会社に高額な依頼料を払って代わりに折ってもらい、完成した千羽鶴だけを送ってもらうシステムであった。 赤の他人に任せた出来合いの千羽鶴。しかも値段はウン十万。だが依頼は引きも切らず、ものすごい数の注文が殺到し、その会社は青天井の売上を叩きだした。 やがて千羽鶴はそこで依頼することが世間の常識となった。 そのマシンは『千羽折るのに一分しかかからない』なのに『ありがたみは十二分にある』ので感謝する患者の数は絶えなかった。 第二号マシン。その正体は、従来の折り鶴マシンを小型化して千台量産し、それを千手観音の形に組み上げ配置した『仏像型折り鶴作成マシン』である。 千手観音さまが折ってくれた千羽鶴を誰が罵倒できようか。 (了)
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