6.Someday My Prince Will Come(いつか王子様が)

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 勇気を出して、『Bar Bluesy』というお店に行った。けれども、チケットは完売で入れなかった。ジャズバーに前売り券が必要なんて、知らなかった。  がっかりして帰ろうとしていたら、中年の優しそうな女性に声をかけられた。旦那さんと一緒だった。 「ほら、私たち二人なのにチケット四枚もあるの。よかったら一枚どうぞ」と言われた。  お金を払おうとしたけれど、「今日は私たちの特別な日なの。だから、この幸せをお裾分けさせて。あなたにとっても特別な一日になりますように」と言って、料金は受け取ってもらえなかった。  何度もお礼を言い、チケットをいただいて席に着いた。お酒が飲めないとお店の人に言うと、ではノンアルコールのカクテルをお持ちしましょうと言ってくれた。ジャズバーなんて珍しくてキョロキョロした。  前方にグランドピアノとドラムスとベースが置かれたスペースがあり、その周りをテーブル席が取り囲んでいた。  少し離れたテーブルから視線を感じて目をやると、あのセレクトショップの女性が優しそうな男性と一緒にいて、私にウィンクしてグラスを掲げてくれた。  さらに視線を移すと、チケットをプレゼントしてくれたご夫婦がシャンパンで乾杯していた。  皆が楽しそうで、皆の幸せが私にも移って、私までうきうきしてきた。
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