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「わかった! それはね、『Someday My Prince Will Come』って言うんだよ」
男の子の口からすらすらと英語が出た。
「サ、サムデ……」
「ふふ、日本語だと、『いつか王子様が』って言うんだ」
素敵な曲名だと思った。
「じゃあ、弾くね!」
男の子はさっきと違い、意気揚々とピアノに戻って行った。
それはとっても素敵な時間だった。王子様みたいな男の子が、私だけのためにピアノを弾いてくれているのだ。窓の下で、私はスウィングして体を揺らしながら聞いていた。演奏が終わると、私は飛び跳ねて拍手した。
「君、なんて名前?」
「市村舞」
「舞ちゃんか。僕は若王子誉って言うんだ」
その瞬間、その男の子は私の王子様になった。
それから、お見舞いに行く途中で王子の家に寄ってピアノを弾いてもらうのが習慣になった。私はたくさん曲を知っているわけではなかったので、たいていリクエストは『いつか王子様が』だったけれど、王子はいろんなアレンジで聞かせてくれた。
けれどもそんな楽しい交流は数ヶ月で終わってしまった。
祖母が亡くなったのだ。お見舞いに行く必要もなくなり、大好きな祖母を失った悲しみに王子のことを考える余裕もなかった。
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