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やがて演奏が始まった。
黒いシャツに白いジャケット、黒い革のパンツの彼はやっぱり王子だった。
大人になった王子は相変わらずハンサムで、その指は魔法みたいに鍵盤の上を駆け巡り飛び跳ねて、素敵な曲を奏でてくれる。
ベースやドラムスとの息の合ったやりとりも楽しかった。私の席はピアノがよく見え、私は王子から目が離せなかった。
『Satin Doll』『Autumn Leaves』どれも聞いたことがある曲だけれど、王子の魔法にかかってとびきり素敵な世界で一つだけの音楽になった。皆がいなければ、スウィングして踊りたいほどだった。
第一部が終わり、王子は一旦カーテンの向こうに去った。皆がおしゃべりに興じる中余韻に浸っていると、王子がカーテンの隙間からこちらを見ているのに気づいた。スーツの男の人と話している。目が合い、びっくりした。
しばらくして、王子は私の席にやってきた。
「舞ちゃん?」
「はい」
私が答えると、「やっと見つけた。綺麗になったね」と王子はにっこり笑った。
私はポカンと王子を見上げ、恥ずかしくて顔が火照り、何も言えなかった。
「終わったら、帰らないで待っていて。たくさん話したいことがあるから」
王子はそう言うと、楽屋に戻っていった。
第二部が始まった。
「今日は大切な女性と再会した、僕にとって特別な一日です」
そう言うと、王子は私を見た。
「次は彼女との思い出の曲、『Someday My Prince Will Come』。日本語の題名は『いつか王子様が』。どうぞお聴きください」
〈了〉
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