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「そうなんですよ。なんか変なことが起きてるみたいじゃないですか」
理紗子は声を抑えながらも興奮気味に言う。
すると、マスターは困ったように苦笑した。
それから、ゆっくりと首を横に振る。
どうやら、本当に知らないらしい。
理紗子は思わず顔をしかめた。
やがて店内にお客の入店が告げられるベルが鳴る。
入ってきたのは二人の女性だった。
理紗子は、コップに水を用意すると注文を取りに行った。
そして、そのまま接客を始めてしまった。
つまり、今の会話はそれっきりだ。
(まあ……別にいいけど)
そう思いつつ、理紗子は小さく息をつく。
とりあえず、今は仕事に集中しようと気持ちを切り替えた。
その後は何事もなく時間は過ぎていく。
午後3時前になり、客足が途絶えたところで休憩に入った。
理紗子はエプロンを外すと、裏口から外に出てスマホを取り出す。連絡する用事がある訳ではないが、友達から連絡が入っていないか確認するために取り出しただけだった。
ふと、理紗子は店の角にクマのヌイグルミが落ちていることに気付いた。
真っ黒なテディベアだ。
誰かの忘れ物だろうか? それにしても不自然な位置に落ちている気がするが……。
不思議に思って拾い上げる。
クリクリとした黒い目が可愛らしいテディベアだ。
「可愛い……」
理紗子は思わず呟く。
周囲を見るが、人影らしいものは見当たらなかったので、少しの間だけ眺めることにした。
両手で抱えてみると意外と大きいことが分かる。
おそらく40cmはあるだろう。
抱き心地も良く、触り心地も良い。
ずっと抱きしめていたくなるような感覚に陥るほどだ。
このまま放置しておくのも可哀想と思い、理紗子は店の中に戻ろうとした。
そのときだった。
背後でカタンッと音が鳴った。
振り返ると、そこには誰もいない。
だが、確かに音を聞いた。
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