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翌週の土曜。
理紗子は店番をしていた。
マスターは買い出しに出かけている。
今日は、理紗子一人で店を回していたが、ピークを過ぎていた為に問題はなかった。
カップルが一組居ただけで、お客は少ない。
暇を持て余していたときだった。
「あれ可愛いですね」
理紗子は不意に声をかけられた。
女性客が窓際に置いてあるテディベアに視線を向けている。
その表情には、かすかな微笑みがあった。
理紗子は嬉しくなって言う。
もちろん、声を抑えてだ。
カウンター席に座っているお客さんだったので、理紗子も自然と顔を寄せるようにして話す。
その女性は大学生くらいに見える。
理紗子より少し年上といったところだろう。
美人で大人っぽい雰囲気の女性だ。
「お店の看板キャラクターなんですか?」
訊かれたので、理紗子は答える。
「いえ。実は忘れ物らしいんですよ。先週、お店の外にあったのを私が見つけたんです。そのままにしておくのは可愛そうなので、落とし主が現れるまで窓際に飾ってるんですよ」
理紗子の答えに女性客は興味を持ったようだ。
「ねえ。一緒に写真を撮っても良いですか?」
女性の頼みに理紗子は断る理由もないので了承した。
女性は彼氏を伴って、テディベアを赤子のように抱き上げ、彼氏と並ぶ。
女性のスマホを預かった理紗子は、カメラモードに切り替えて二人をフレームに収めた。
それから、シャッターボタンを押す。
すると、フラッシュが焚かれ、二人の姿が一瞬だけ光に包まれた。
その瞬間、理紗子は表情が強ばる。
無事に撮影を終えると、女性が嬉しそうに礼を言う。
どうやら満足してくれたらしい。
理紗子はスマホを女性に返し、カップルはお店を後にした。
店内に一人になった理紗子は、テーブルに置かれたテディベアを見る。
あれは、なんだったのだろう。
フラッシュが炊かれる直前に見た光景を思い出しながら思う。
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