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それなら、なぜそんなことをするのか。
その理由は分からない。
ただ言えることは、悪意を感じるということだけだ。
「テディベアって……」
理紗子はテディベアに視線を向ける。
もしかすると、あれが原因なのではないか。
理紗子の不安そうな顔を見て、マスターが言った。
「まさか。ヌイグルミが不幸を呼び寄せたりしないよ。それに、あれは忘れ物だからね。落とし主が現れるまで大切に保管しておくつもりだよ」
理紗子は、その答えを聞いて安堵した。
そうだった。
あれはただの忘れ物なのだ。
落し物を預かっているだけに過ぎない。
悪いものじゃない。
そう思うことにした。
それから数日間は、何事もなく平穏な日々が続いた。
そんなある日のことである。
お店が休みだった理紗子は、自宅で過ごしていた。
テレビを見ようとリモコンを手にしたとき、テーブルの上に置きっぱなしになっているスマホが目に入った。
そういえば、最近あまり見ていなかった気がする。
SNSアプリを開いてみる。
すると、ある人物からメッセージが届いていることに気が付いた。
送り主は、以前喫茶店で知り合った女性・池内良子だった。
あの事故に遭った女性。
理紗子は、あれから病院に行くとカップルを見舞ったのだ。アドレスはその時に交換した。
理紗子は内容を確認すると、急いで返信をした。
そして、すぐに電話をかける。
数コール後に相手が出た。
理紗子は、相手の声を聞くなり驚いた様子で言う。
それは、待ちに待った返事が届いたからだ。
「良子さん退院できるようになったんですか!」
理紗子は、つい大きな声で言ってしまった。喜びのあまりに涙ぐむほどだった。
電話越しに良子が言う。
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