忘れられたテディベア

7/13
前へ
/13ページ
次へ
 それなら、なぜそんなことをするのか。  その理由は分からない。  ただ言えることは、悪意を感じるということだけだ。 「テディベアって……」  理紗子はテディベアに視線を向ける。  もしかすると、あれが原因なのではないか。  理紗子の不安そうな顔を見て、マスターが言った。 「まさか。ヌイグルミが不幸を呼び寄せたりしないよ。それに、あれは忘れ物だからね。落とし主が現れるまで大切に保管しておくつもりだよ」  理紗子は、その答えを聞いて安堵した。  そうだった。  あれはただの忘れ物なのだ。  落し物を預かっているだけに過ぎない。  悪いものじゃない。  そう思うことにした。  それから数日間は、何事もなく平穏な日々が続いた。  そんなある日のことである。  お店が休みだった理紗子は、自宅で過ごしていた。  テレビを見ようとリモコンを手にしたとき、テーブルの上に置きっぱなしになっているスマホが目に入った。  そういえば、最近あまり見ていなかった気がする。  SNSアプリを開いてみる。  すると、ある人物からメッセージが届いていることに気が付いた。  送り主は、以前喫茶店で知り合った女性・池内良子だった。  あの事故に遭った女性。  理紗子は、あれから病院に行くとカップルを見舞ったのだ。アドレスはその時に交換した。  理紗子は内容を確認すると、急いで返信をした。  そして、すぐに電話をかける。  数コール後に相手が出た。  理紗子は、相手の声を聞くなり驚いた様子で言う。  それは、待ちに待った返事が届いたからだ。 「良子さん退院できるようになったんですか!」  理紗子は、つい大きな声で言ってしまった。喜びのあまりに涙ぐむほどだった。  電話越しに良子が言う。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加