忘れられたテディベア

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 ランチの忙しさが一段落した。  喫茶店内は、静かで落ち着いた雰囲気に包まれている。  この店の近くには商業施設が多いせいか、平日でもそれなりに客がいるが、今は昼下がりだからなのか、アルバイトの少女とマスター以外にお客さんの姿はなかった。  マスターの年齢は40代後半といったところだろうか。  白髪混じりの髪をオールバックにして、口髭と顎鬚を蓄えており、細身だが筋肉質な体つきをしている。  アルバイトの少女は、高校生だ。  肩のあたりで揺れる毛先が大人可愛いワンレンミディアムヘアの少女。  身長は高く、スタイルが良く顔も整っているため、美少女と言って差し支えなかった。  ただし、目つきが悪い。  つり上がった大きな瞳は、どこか攻撃的な雰囲気を放っている。  名前を安理紗子(あんりさこ)と言った。  そんな状況もあってか、理紗子はマスターと二人でカウンターに立ちながら、何気ない雑談を交わしていた。  そして、ふとした拍子に、こんな話題になる。 「そういえば……最近、何か変わったことありました?」  その質問を受けて、マスターが少しだけ考えるような仕草を見せる。  そして、思い出すようにしながら答えた。  理紗子の視線がわずかに鋭くなる。  それは、彼女が警戒している証拠だった。  この店の近くにある施設――ショッピングモールでは、少し前から奇妙な事件が起きているらしいのだ。  死体が見つかったというニュースこそ流れていないものの、毎日の様にサイレンの音が響いている。それは救急車であり、消防車であり、パトカーでもあった。明らかに異常な出来事が続いている。  学生の理紗子が気にするのも当然だろう。 「ああ……あの事件のことか」  少なくとも、マスターはその事件について知っているようだったが、どうやら深刻な様子ではなかったからだ。  もっとも、事件の概要くらいなら知っていてもおかしくはないのだが。  それでも、こうして口に出すということは、あまり詳しい情報を知らないということかもしれない。  それならば、理紗子にも話すことができる。  彼女は少し安心して口を開いた。
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