神様イミテーション

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 脱兎の如く赤谷家を離脱し、復活していた地下鉄に乗って楓はようやく大学に戻った。  だいぶ街中の人ははけていたが、研究室の学生達に聞けば、やはりまだ方々で非常線が張られているらしい。職質をかけられる学生とそうでない学生の差はどこにあるのか、と盛り上がる院生室に赤谷家から持たされた菓子箱を積み上げてから、楓は自分のデスクに向かった。  ネットで事件の概要を再確認しつつ、大家に今日の顛末を簡単にメールする。彼はこういうことの事後報告を嫌がる、というか、おそらく祐輔ルートで伝わるので、ちゃんと連絡すべしということは楓も学習していた。夫婦円満の秘訣である。  すぐに「おつかれ。お姉さんらは元気だった?」と返ってきて、「元気すぎだ」とレスする。取って喰われるところだった、と打ち込みかけたがさすがに止めた。  それより、問題は銃撃事件だ。  少なくとも選挙期間中は厳戒態勢になるだろうし、大勢の人が集まる場所もそれに倣うかもしれない。新幹線や航空機の長距離移動は警備も変わってくる可能性があり、そうなると彼にも影響があるだろう。  こんな時でも「気を付けろ」としか云えず、それ以外に出来ることを探しても楓に残るのは無力感だけなのだが、だからといって云わない理由にはならない。 「うん、気を付ける」  と返ってきた返信に、後でちゃんと声を聞こうと思う。  結局、本日の進捗は思わしくなかったが、楓はPCをシャットダウンして帰路に着いた。
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