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「ええ、まだあちらでした。でも……そちらの方が、むしろ頻繁に報道されていましたので」
大地震はもちろん悲惨な大災害だが、危険性に地域差がある。しかし地下鉄のテロは……世界中の何処であっても危険性があるのだ。
特に、公共交通機関で市民を無差別に狙った宗教団体による同時多発テロだ。欧米では事件の背景もあり、連日のように大々的に報道されていた。震災の影が薄くなるほど。
そうかもねえ、と津川は首を傾ける。
「あの頃、僕はまだ博士終わったばっかりかな、T大に残ってて……本当にね、厄介だったんですよ。化学科は隣でしたしね」
「ああ、それは大変でしたでしょう。私はそのころまだ名古屋だったので、たいしたことは」
「そうでしたか。あれ、それでも警察来ましたか?」
「ええ、でもあれは、捜査というよりは……牽制みたいなものでしょうね」
けんせい?
なんだそれは、と思っていると、津川が小さなため息を吐いて応えてくれる。
「あの頃は……とにかく全国的に捜査網が広げられたんだよ。少しでも可能性があるところは関連を疑われてねえ。うちの隣の研究室には同期に……がいたという助手の人も居て」
たしかテロに使われた神経ガスを開発した容疑者たちは、事件を主導した宗教団体にはT大やK大を始め、有名大学を卒業したエリートが多かったと報道がされていた。
そこまで考えてから、あっ、と楓は息を呑む。
「えっ、まさか」
「うん、まさかとは思うけど、どうも……似てるんだよね」
「そうなんですよ、あの頃の雰囲気と少し、近い」
ただならぬ緊張感、不穏な空気、そんなものが。
似ている。
「だってそんな、あの団体は確か解散命令が」
たたみかけた楓だが、うろ覚えながら完全に消滅してはいなかった記憶もある。しかし、20年以上も前のテロと今回の銃撃事件を結びつけるだけの『何か』があったということなのか。
更に問いかけようとしたところで、思わぬ方角から意外な声がかかった。
「やましなせんせい」
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