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『瑞穂は神様じゃない』
その可能性に気付いて、楓は思わず腰を浮かせた。
「かみさま、って、まさか」
「ええ、そのまさかです」
綾野の冷たい答えに、津川教授も息を止めている。綾野は黙ってファイルから新しい資料を取り出す。恐らく綾野自身の字で、簡単な人物相関図とタイムラインが書き記してあった。
「この手の新宗教の代表は神またはその代理人を兼ねます。神の言葉を語り、奇跡を行う。この団体の創始者も元はセラピストだったんですよ。彼は妻帯者ではありましたが、他にも信徒の中に愛人がいることが分かっています。教団内では愛人とは云わないでしょうけどね」
危うく、クソ野郎、と口に出すところだった。
あの事件を起こした某宗教団体と同じだ。否、同じと言ってしまうのは早計だとしても、これはあってはならないことではないのか。神の名の下に、信仰心を利用してそんなことが行われたとして。
「瑞穂さんの父親は、ひょっとして」
「戸籍上は鶴岡氏です。でも、母親が教祖に傾倒していった時期を考えると、否定する材料がないです。DNA鑑定でもしないかぎりは。だから、そこをむしろ逆手に取ったんですよ」
誰が、とは、恐ろしくて訊けなかった。なんてことを、と、津川が呻くのが聞こえた。まったくだ。
「運良く、この場合は運悪く、ですかね……瑞穂さんは優秀でした。教義、というより『聖書』の理解も深かった。またこの写真以外は、やはり卒業アルバムのようなものばかりなんですが、とても、とても綺麗な女性でした。そして、そのころは母親も教団内でかなりの地位にいたんです。頭脳と美貌、教祖の娘かも知れないという噂。それがそろったら、山科先輩ならどうします?」
口にするだに苦々しいが、他に有り得なかった。
「……広告塔にするだろうな。有用だ」
カリスマを作るのだ。
人工的に。
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