神様イミテーション

3/33
前へ
/33ページ
次へ
 研究室の内線電話である。  通常であれば四年生、院生が受けるが、今は人が居ない。そもそも、ラボの内線にかかってくるのは大学の事務か業者からの電話で、土日に誰から?と、訝りながら楓が受話器を取ると、聞き慣れた声が聞こえてきた。 「あれ、山科君? 今日いるの君だけ? そっか、あのね、今、出町柳の駅なんだけど」 「出町柳ですか」  じゃあもうすぐ着きますね、と続ける前に津川が遮った。 「それが困ったことになって」  後ろがいやに騒がしい。観光都市京都といえど、もっとずっと密度の高い雑踏のような。怒号に近い声まで聞こえる。 「どうしました? なんだかすごくうるさいというか、ん? 救急車ですか?」 「そうなの、どうも事件があったらしくて」 「ええっ!?」  道路と地下鉄の駅が封鎖されているらしい、ということを聞き出して、慌てて場所を指定して電話を切った。  客人はたしか南米か中米の研究者で、英語には不自由しないだろうが母語が違う者同士、この暑さにエマージェンシーとなれば、教授ひとりでは持て余すだろう。そして、今日の人気のなさはその事件が原因か、と思ったりもする。  楓が理学部▲館から公道に出ると、確かに人が逆流していた。百万遍交差点では交通規制がかっており、更に混乱しているようだ。何だこれは、と思っていると通りすがりの人々の口から、「事件」「テロ」「爆発?」などと物騒な単語が聞こえてきた。  テロ、とは…?   この国で聞くのは稀な単語だ。人波を擦り抜け、だいぶ大回りしながら駅近くのカフェに辿り着くと、「山科君、こっちー」と津川教授が手を振っている。店内も大混雑だ。  ひとまず客人達と「ないすつーみーつー」と挨拶を交わす。南米からの研究者達は、この状況にも慌てず抹茶ラテに喜んでいる様子なのが救いである。 「何事ですか?」 「どうもね、銃撃事件なんだって」 「……はっ?」
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加