神様イミテーション

33/33
前へ
/33ページ
次へ
「野球……見るか」  ぽつり、と楓は呟いた。 「え?」 「なんですか?」  二人に聞き返されて、自分が発声していたことを知る。ええっと、と、楓はもっともらしく真顔を作って宣言した。 「こういうときは、もうぜんぜん関係なくて単純なことをしましょう。競馬とか焼肉でも良いです」 「……That’s a good idea、だよ。行こうか」  意外にもすぐに津川が同意して、マジすか、と言いながらも綾野も資料をしまい始めている。「競馬も興味はあるんですが。え、京セラですか?」等と言うので、「甲子園はそろそろ高校生が使うだろ」と応えてみる。記憶では祐輔が先発のはずだが、と楓はスマホを取り出した。 「チケット、すぐ取れるもの?」 「大丈夫ですよ、あそこ空いてるんで」 「えっ、ちょっとかわいそう…」  それは言ってくれるな、と応えながら、チケットを手配する。今からなら序盤には間に合うはずだ。  神様がいるかどうかは知らない。  それでも、あの、祈るようにマウンドを眺めていた彼の顔を思い出す。その一瞬、なにかを信じていた少年たちも。それは罪ではない。それは切実でどうしようもない、想い。  鶴岡航平が、いつか目覚めるといい。  楓は、それだけは祈ってもいいと思った。たとえ、相手が偽物の神であっても。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加