28人が本棚に入れています
本棚に追加
「野球……見るか」
ぽつり、と楓は呟いた。
「え?」
「なんですか?」
二人に聞き返されて、自分が発声していたことを知る。ええっと、と、楓はもっともらしく真顔を作って宣言した。
「こういうときは、もうぜんぜん関係なくて単純なことをしましょう。競馬とか焼肉でも良いです」
「……That’s a good idea、だよ。行こうか」
意外にもすぐに津川が同意して、マジすか、と言いながらも綾野も資料をしまい始めている。「競馬も興味はあるんですが。え、京セラですか?」等と言うので、「甲子園はそろそろ高校生が使うだろ」と応えてみる。記憶では祐輔が先発のはずだが、と楓はスマホを取り出した。
「チケット、すぐ取れるもの?」
「大丈夫ですよ、あそこ空いてるんで」
「えっ、ちょっとかわいそう…」
それは言ってくれるな、と応えながら、チケットを手配する。今からなら序盤には間に合うはずだ。
神様がいるかどうかは知らない。
それでも、あの、祈るようにマウンドを眺めていた彼の顔を思い出す。その一瞬、なにかを信じていた少年たちも。それは罪ではない。それは切実でどうしようもない、想い。
鶴岡航平が、いつか目覚めるといい。
楓は、それだけは祈ってもいいと思った。たとえ、相手が偽物の神であっても。
最初のコメントを投稿しよう!