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第一幕:だって他に行くとこないし。
王様サイズのふかふかベッド。LEDパネルの透き通った光が、レンガ風の造りをした薄グレーの壁や、ふたつ並んだ白い枕をぼんやりとピンク色に染め上げる。
そんな夜めく空間なのに、耳に入ってくるのは野太いデスボイスだ。まあそもそも、今はまだ夜ですらないけども。激しく生き急いだビートが、ピンクパネルの傍らに置いたハムオのスマホからガンガン鳴っている。
なんてチグハグで、とち狂った世界だろう。
「これ聴いていい子に待っててよ」
ハムオにそう言われたもんだから、あたしは大人しく、王様のベッドから少し離れたソファーに腰掛けている。鳩の血みたいな毒々しい色のわりに、座り心地は平凡だ。
ちなみに、この最高すぎるズチャズチャは、あたしが最近ハマっているロックバンドの神曲。ハムオにそんな話をした覚えもないけど、多分あたしの着信音がこの曲だからセレクトしてくれたんだろう。
ハムオはダメオ。でも、誘った相手に対して最低限のもてなしを忘れない。彼の数少ない長所のひとつだと思う。
無意識にタバコをくわえてしまい、仕方なく火をつけた。別に吸いたくもないのになと思いながら吐き出した苦い煙の向こうは、明け透けなバスルームの脱衣所。
背中をこちらに向けたハムオは、腰にタオルを巻いただけの姿だ。珍しく神妙な顔つきを大きな大きな鏡に映し、劇薬クリームを髪にこれでもかと塗りたくっている。肩にもタオルかけなさいと思う。意外に筋肉質な腕が動くたびに、肩甲骨もうねうね動く。
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