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第二幕:いつものやつ。
バスルームから戻ってきたハムオは、ダークトーンから見事なブロンドに変身していた。
でも、残念ながら新鮮味はない。定期的に髪色を変えるコイツと三年も繋がっていれば、だいたいのカラーは拝見済みなのだ。似合ってはいるから一応褒めておいた。
そう、三年も繋がっているくせに、あたし達はマブでもラブでもない。だから、ただベッドに並んで転がるのにも理由がいる。こんな所に来ておいて可笑しな話だけど。
「あー寒い! 布団入ろ!」
既に布団を被っていた寒がりのあたしの隣に、ハムオがわざわざそう口にして潜り込んでくる。バカみたい。タオル一丁のままのハムオも、エアコンの温度を上げないあたしも。
だけど、この言い訳が必要なのが、あたし達の距離なのだ。百億光年の彼方から0.01mmまで近づくために、こんなめんどくさい三文芝居を毎度繰り広げる。
子供体温なハムオが侵入したせいで、王様ベッドの中が一気に常夏と化した。
「ポコミン、いつカレシ作るの?」
相変わらずハードなロックを奏でるスマホを枕元から拾い上げながら、ハムオが唐突に言う。少し動いた金髪から、ブリーチ剤の残り香だろう、アンモニア臭が微かにして、あたしはくせえと眉を寄せた。
「んー。前は欲しかったけど、なんかめんどくさくなってきた。ほらあたし、束縛ダメじゃん?」
「それは俺も同じだからわかるけど……。あ、これにしよ」
ステキ騒音が急に止み、代わりに流れ始めたのはやっぱり生き急いだ曲だった。でもロックじゃなくて、氷柱みたいに尖って澄んだピアノの音。ピアノソナタ『熱情』第三章だ。
「ベートーヴェンじゃん」
「うん、これ好き。俺のおやすみソング」
「これで寝れるとか、ハムちんアタオカ」
鼻で笑ったけど、実はちゃんと分かっている。ピアノが趣味なあたしのために、ハムオはこれを流したのだ。いつだってホスト精神が突き抜けていて心地いいから、あたしもこんな節操のない呼び出しに毎度応じてしまうわけ。
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