彼女の手料理

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彼女の手料理

 疲れたなあとゆっくり息を吐いて、その分を吸い上げると、にんにくの香りが腹に響いた。 「今日は『レタスとお肉』だよ」  聞いたことのないレシピ名。 「前に話したじゃない。お母さんの実家で作ってた料理で、うちでもたまに出るって。今度作ってあげるねって約束したから、今日作ってみたんだけどな」  リビングに行くと、すでに夕食の準備がほぼ終わっていた。あとは『レタスとお肉』とやらを今夜のおかずとして並べるだけになっている。 「冷蔵庫からバター出して」  お茶もお箸も白米も用意してあるというのに、まだ一品足りないらしい。 「これ以上作らないよ。この料理はバターを乗せて完成なの」  彼女は二人分の『レタスとお肉』にそれぞれひと欠片ずつバターを乗せると、そのうち片方を僕に渡した。 「持って行って。食べよ」  僕らは着席する。 「いただきます」  ようやく空腹を解消できると、箸を持った瞬間、未知の料理に手が伸びた。二センチ幅に切られた豚ロースが五、六個と濃いめの琥珀色のスープを吸ったしなしなのレタスがスープ皿を埋めている。箸で掴んだのはカットされた肉。ちょうどバターが乗った場所で、淡い黄色が表面をコーティングしていた。  それをまるごと口に入れた。 「どう?」  スープとバターとの相性が合っていて、気付けば何個も口に運んでいた。 「満足してくれたみたいでよかった。死ぬまで食べたいから、リュウくんのお口に合わなかったらどうしようって思ったんだけど、杞憂だったみたい。これからたくさん作るね」  美味しいけれど、スープに油が浮いているのが見える上にバターもあるから、そんなに頻繁に作られたら太ってしまう。 「仕方ない、美味しいものにはカロリーがつきものよ。もしお腹周りが気になったら、一緒にジムとかプールにデートしに行こ」  行き先に困らなくなるというなら、少しくらいこの料理をおねだりしてもいいかもしれない。 「……また作ってよ。ロースとかレタスが安いときでいいから」
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