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いつもより早い家路は混んでいて、暖房の効いた車内で携帯を出すのも億劫で柱に寄りかかった。
鼓動のようなリズムに身を任せて地上の星を見送り、ため息を落とした。
(英語、もうちょっと真面目に勉強しておけばよかったかなぁ)
駅で改札を抜けて時刻を確認する。その足で立ち寄ったのは自宅の最寄りのコンビニだ。
おでんの香りに季節を感じるが、手にしたのは弁当とロールケーキ。
(疲れた時は甘いものがたべたくなる)
酒はほとんど飲まないのでストレス解消にはスイーツだ。
すれ違った若い女性の笑顔に疎外感を覚えながら会計を済ませ、自動ドアを抜ける――空気が一変する。
「さむ……っ」
コートの上に巻き付けたマフラーに頬まで埋めて小さくつぶやく。
頬を撫でる風は冷たく、息は白い。
空に浮かぶ青白い月はナイフのような繊月。
(知り合って数か月じゃ知らないことがあって、当たり前)
憂鬱な気分を吹き飛ばすように白い息を吐き出して、凛と冷えた空気を吸いこんだ。内側から差すような冷気に、涙が出そうだ。
(ジルさんは千秋さんと……やり直すために日本に)
薄暗い路地を肩を落として歩く律を慰めるように、袋の中で弁当のパックが軋んで甲高く鳴いた。
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