スノームーン

11/11
前へ
/61ページ
次へ
 いつもより早い家路は混んでいて、暖房の効いた車内で携帯を出すのも億劫で柱に寄りかかった。  鼓動のようなリズムに身を任せて地上の星を見送り、ため息を落とした。 (英語、もうちょっと真面目に勉強しておけばよかったかなぁ)  駅で改札を抜けて時刻を確認する。その足で立ち寄ったのは自宅の最寄りのコンビニだ。  おでんの香りに季節を感じるが、手にしたのは弁当とロールケーキ。 (疲れた時は甘いものがたべたくなる)  酒はほとんど飲まないのでストレス解消にはスイーツだ。  すれ違った若い女性の笑顔に疎外感を覚えながら会計を済ませ、自動ドアを抜ける――空気が一変する。 「さむ……っ」  コートの上に巻き付けたマフラーに頬まで埋めて小さくつぶやく。  頬を撫でる風は冷たく、息は白い。  空に浮かぶ青白い月はナイフのような繊月。 (知り合って数か月じゃ知らないことがあって、当たり前)  憂鬱な気分を吹き飛ばすように白い息を吐き出して、凛と冷えた空気を吸いこんだ。内側から差すような冷気に、涙が出そうだ。 (ジルさんは千秋さんと……やり直すために日本に)  薄暗い路地を肩を落として歩く律を慰めるように、袋の中で弁当のパックが軋んで甲高く鳴いた。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加