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 冷え込みで結露する窓の向こうに並ぶ冬枯れの木立。  月を欲しがる子供のように、枝を空へと伸ばして木枯らしに凍えている。  女性ばかりの職場で加湿器だけが真面目に仕事に勤しむ。 「――やっぱり奥さんの方が悪いわね」  湯呑を手にした悦子さんが探偵のような口調でにんまりわらう。  時刻は九時を過ぎた――そろそろ悦子さんも出動の時間だ。 「仕方ないですよ初恋の人は特別ですもん。高校生にもなったら大人の階段を登っちゃってる可能性もあるでしょ?」  昭和の名曲のフレーズをつぶやいて個包装を破ってクッキーを頬張るのは伊藤ちゃん。 「それ、それ。若気の至りってやつね? 初めてを捧げた相手ならそりゃ忘れられない……って何年前よ~」 「同窓会って不思議ですよねー。学生時代に戻ったような気になっちゃうんですよね。お互いにいい年になってるのに羽目を外して……ねえ」 「ありがち。けど、旦那さんもいい年をして張り合って若い子と盛り上がって朝帰りなんて、ねぇ」  悦子さんが派遣された先の奥さんが同窓会で旧知の男性と盛り上がり、それを知った旦那さんはそういうお店の女性と羽目を外して――別居寸前なのだと楽しそうに教えてくれた。 「……ドラマみたいですね」
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