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つぶやく律は家政夫になって日は浅いがそんな展開に出くわしたことはない。
当事者もまさかこんな場所でアイドリング中のオバちゃんの燃料として話題が提供されていることなど知らないだろう。
(――絶っ対、知らないほうがいい)
「律は好きになった人を引きずるタイプ?」
――律にも燃料のおすそ分けが来た。
「そりゃ、落ち込みますけど。フラれたら仕方ないって諦めますよ」
律の遍歴については思い出したくない。
というか――トラウマだ。
初めて想いが通じたと思った男は無理やり行為に及んだ。残された傷は未だに疼く。
恋愛対象は同性だったので、当たり前に彼女はいない。
どうやら律は女運も男運も持ち合わせていないようだ。
「やっぱり深い関係になると違うのかしらー、知らんけど」
悦子さんは関西のおばさまのキメ台詞で締めて、菓子鉢から煎餅をつまむ。
「幾つになっても刺激を求める気持ちはわかる気がしますよ」
「やだ、伊藤ちゃん、そういうことに興味あるの?」
「あるけど、創作の世界で満足してます」
「そうよねぇ、私たちって羽目を外せる年じゃないもんね」
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