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「相手がどこかの社長で大金持ちだったら話は別です」
「今さら玉の輿を狙っちゃう~?」
「ないない。オバちゃんにあるのはやり残しだけよ~」
笑って悦子さんはザラメ煎餅を袋の中で割って欠片を口に放り込む。
しばらくかみ砕いてから茶で喉の奥に流しいれて、一息ついた。
「――律はそういう相手はいないの?」
嫌なお鉢が回って来た。いつのまにか巻き込まれキャラになっている。
「こんな仕事してたら出会いも縁もありません」
「ははっ、それもそうよね、派遣先は既婚者ばかりで職場はオバちゃんばっか。話題も古いしねぇー」
伊藤ちゃんが大きな口を開けて笑ったところで社長が帰って来た。お気に入りのブランドバックを机に置いて鋭く目尻を吊り上げる。
「ほら、いつまでしゃべってるの! 仕事しなさい」
あわてて「行ってきます」とカバンを取り上げた悦子さんの隣で律はボールペンを手に取った。事務仕事をさっさと片づけてしまおう。
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