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「僕は家族じゃありませんから。僕がいたら家族水入らずの邪魔になっちゃいます」
あわてて立ち上がった千秋から距離を置こうとしたが――洗面所に逃げ込もうとした二の腕を掴まれた。
「律が遠慮する必要はないよ。なにか誤解してないか?」
「大丈夫です、気にしないで」
「ジルはすぐにフランスに帰る。子供が欲しくて日本に来ただけで――」
千秋の声は律の鼓動で遮られる。
口から溢れそうな黒い感情を無理やりに飲み下す。
目を閉じると寂しいと訴えたジルの顔。
「すみません。まだ、片づけが終わってないんです」
小さく詫びて、顔を逸らせた。
やり直そうとする夫婦に律は邪魔だ。話し合えば状況はきっと変わる。
「お風呂の洗剤を切らして……カップを片づけたら買い物に出ます」
ぎこちなく千秋の手を解いて空になったカップを持ち上げた。
(――僕は家族じゃない)
視線を落としたシンクで泡を流す水音が、いやに大きく耳に響いた。
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