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3
雪の日がうれしいと思わなくなったのはいつからだろう。
日差しを遮る雲に覆われた空は暗い鈍色。
窓を揺する寒風に小雪が舞い踊る。
「お手紙って、なんて書いたらいいの?」
律に問いかけるのは、鉛筆を手にした小難しい顔のエマ。
バレンタインデーのプレゼントに添える手紙を作成中だ。
「なにって……」
問われて語尾を濁らせた。
思い返して見れば律もラブレターを書いたことがない。
(相手は子供だし。けど、いまどきの園児って……)
ぎこちなく片目をつぶる仕草をしたエマを思い出して天井をにらんだ。
想像力をフル回転させて考えてみる。
「一緒に遊ぼうね、とか。いつも仲良くしてくれてありがとう、とか」
「意外と普通。つまんない」
口を尖らせるエマになにを期待されていたのやら。
指摘されるまでもなくバレンタインデー感は限りなく薄い。
「お手紙の相手って、エマちゃんが好きな子?」
問いにエマはわざとらしく視線を逸らせた。
そっぽを向いたはちみつ色からのぞく耳が赤い。
「ちっ、ちがうもん」
(うわ……かわいい反応)
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