スノームーン

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「もう少しで終わりでしょ?」  促されてしぶしぶ鉛筆を走らせる。数字やアルファベットは得意なようだが日本語――特にひらがなに苦戦している。一番嫌いな文字は『む』だ。 (嫌だからって避けてばかりもいられないし)  親が日本人だからといっても語学は勉強しなければ身につかない。特に日本語は漢字やカタカナなど大人でも苦労する。 「パパにはチョコレートをあげないの?」 「あげない。だってお友達じゃないもん。エマは別の子にプレゼントするの」 「そうなんだ」  エマにとってバレンタインデーは友情を確認する日で好きな人に告白する日ではないようだ。なんとなく時代の流れを感じて口の端を下げた。 「エマは可愛いからお友達がいっぱいで大変なの」  どこで覚えてきたのか、ぎこちなく片目をつぶってみせる。  可愛い姿に苦笑するが、誰に教えてもらったのやら。 (僕より園児の方が積極的かも)  視線をテーブルで伏せた携帯に向ける。  今日も千秋は遅くなるとメールがあったばかり。返信で帰宅時間を確認したが「深夜になりそうなので夕飯はいらない」とそっけない返事があっただけ。 (気を、使ってるのかな)
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