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千秋は夜遅くに疲れた顔で帰宅して朝は律より早く出勤している。最近は律がエマの登園に付き合うことも増えた。
「できたっ」
得意げに胸を張る手元でぺしゃりと潰れた『む』の字。
頷いてドーナツを乗せたトレイをテーブルに置いて、花丸を書いてやる。
(花丸を書く方がシールより喜んでくれるんだよなぁ)
勉強の片づけを手伝って機嫌よくドーナツを頬張るエマを見守る。
夕飯のメニューを考えながら窓の外に視線を向けた。
日差しを受けた影は長く伸びている。冬の日暮れは早い。
※
エマのリクエストに応えてショッピングモールに立ち寄った。
店内は華やかな赤やピンクのハートが舞い踊る。
ショーケースにチョコレートが並ぶ――特設のバレンタインコーナー。甘い香りに誘われるように女性たちが立ち寄っていく。
「エマこれが欲しい!」
人が途切れたコーナーでエマが見つけたのは可愛らしい猫のハンカチ。
子供雑誌でよく目にする人気のキャラクターだ。
「それをお友達のプレゼントにするの? お手紙も付けてプレゼントしてあげたら喜ぶよ」
「……お手紙いる?」
律の提案に露骨に嫌な顔になる。
(少しでも文字を書くのに慣れてほしいんだけどな)
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