スノームーン

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「分かったから、座って」  戸惑う律を放置して千秋は慣れた様子でジルをソファーに促す。 (……前の奥さんって結構激しいタイプなんだ) 「チアキ、寂しかった? 顔がちいさくなって……ご飯食べてる?」  赤いマニキュアの両手で頬を包み込んで心配そうに眉を寄せる。 「小さくなってない。忙しいだけだ。ダイエットにちょうどいい」 「ノンノン、ちいさいチアキはダメ」  立てた人差し指を振って唇を尖らせる。 「俺が魅力的なら日本に戻ってくれるの?」 「んーノンね。フランスで愛しい人(マ・シェリ)が待ってる」 「はいはい。クロエによろしくね」  アクセントのおかしい日本語に、聞きなれない単語が混ざっている。 「で、この仔猫(シャトン)ちゃんは?」  思い出したように青い目でじぃっとみられて、困った。 (挨拶って、日本語で……いいのかな?) 「この間、話しただろう。律だ」  幾度か律の名前を口の中でつぶやきながら、記憶の引き出しをかき回しているのか上目遣いで下唇をなぞる。 「ウィ。リツ! 千秋のお気に入り(モン・シュー)!」  思い出したのかポンと、手を叩いた。
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