スノームーン

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「あの、病院って?」 「心配ないよ」  どこか悪いのかと心配する律をあっさりといなす。  ジルの声がうるさかったのか、子供部屋の扉が開いた。  顔をのぞかせたのは――まばゆそうに目を細めるエマ。ジルは少し目を見張って優しい笑顔で両手を広げる。 「エマ! 可愛い天使(モン・ナンジュ)」  抱きしめて幾度も額に口づけをして、乱れた髪を撫でつけて顔をのぞき込んで額を合わせる。 「一昨日、話したよ……」  まだ夢の国の余韻を引きずった顔で口を尖らせるが、嫌がっていはいない。 「んー、エマはお日様の匂いする」  目を細めて笑うジルは母親の顔だ。 「エマ。ママンとバカンス、オーケー?」 「水族館!」  うれしそうな顔になって両手でジルに抱き着いた。   体いっぱいで甘えるエマを初めて見た気がする。 (やっぱりまだ小さいし、離れて暮らすお母さんが恋しいんだろうな)  律には分からない言葉で笑い合う三人に見えない壁を感じて苦く笑う。  英語とも少し違うイントネーションはフランス語だろうか。  問えば千秋が通訳してくれるが、会話のスピードについていけない。  雰囲気を壊したくなくて分からない所は曖昧に笑ってやり過ごした。
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