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ぼくは、「さらん」
この家に、新しい家族として、迎えられたワンコだ。
「さらん」という名前は、外国の言葉で「愛」というらしい。
家族みんなで、一生懸命考えて付けてくれた。
そして、この家の兄妹のシンちゃんとリコちゃんは、ぼくの取り合いだった。
抱き締めたり、頬ずりしたり、ぼくは、もみくちゃになったけれど、とても嬉しかった。
でも、時が経つにつれて、シンちゃんは野球に夢中になり、リコちゃんは、新しい恋人に夢中になった。
ぼくのことは、どうでもよくなっていった。
お父さんとお母さんは、交代で、ぼくを渋々、散歩に連れて行ってくれたけれど、そのうち行かなくなった。
お父さんとお母さんは、ケンカばかりしていた。
そして、家族は、離れ離れになることになった。
ぼくは、シンちゃんとリコちゃんと別れて、お父さんと暮らすことになった。
でも、一人暮らしだったお父さんは、新しい女の人を家に連れてくるようになった。
その女の人は、ぼくが嫌いだった。
ぼくは、ある日、散歩に連れ出された。
久しぶりで、とても、とても、嬉しかった。
しかし、はしゃぐぼくが、連れて行かれたところは、悲しそうな顔をしたワンコたちが、たくさん檻の中に入れられているところだった。
ぼくも、檻に入れられた。
「お父さん! 助けて!」
ぼくは、何度も泣いたけど、お父さんは、黙って行ってしまった。
ぼくは、怖かった。
ご飯も食べられなくなった。
檻の中のワンコたちは、一匹一匹、何処かへ連れて行かれて、帰って来なかった。
そして、ぼくの番が来た。
ぼくは、小さな部屋に入れられた。
しばらくすると、苦しくて、苦しくて、たまらなくなった。
シンちゃん、リコちゃん、お父さん、お母さん、助けて!
ぼくが、悪い子だったからなの?
ぼくは、みんなが大好きだったのに……。
大好きで、たまらなかったのに……。
どんどん、意識が薄れていく……。
……さようなら。
ぼくは、「さらん」
それでも、みんなを愛してる。
END
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