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(又)
と源が心の中で名前を呼んでいると、
「そなたは戦が嫌いか」
と源の頭上から声が聞こえてきたのでびっくりした。
源が、おそるおそる振り返って見ると鎧に身を包んだ上品な武者が立っており、一目で
(お館様だ)
と源は思い、
「お館様」
と言って、土下座しようとすると、
「そのままでいよ。敵に我が場所が分かってしまう」
と景虎は、源を手で制した。
「はい」
と源が返答すると同時に、景虎は源の隣りに
「がしゃ」
という音とともに座った。
「申しあげづらいことですが、戦は嫌いです」
と源は、景虎の方に顔を向けて目を伏せながら答えた。
「わしも戦は大嫌いだ」
と景虎が言ったので、源はとてもびっくりした。
「人は何故争ってばかりいるのだ」
と景虎は、月を見ながら言い、
「人が人を殺す。戦だからいいというのはおかしいことだ」
と続けて言った。
「お館様のおっしゃるとおりです」
と源が言うと、
「人々が煩悩を捨て去りすればいいが、なかなかそうもいかぬのか」
と景虎は、自分の問いかけるように言った。
しばらく景虎は月を眺めてから、
「そなた達が戦に出ず、畑仕事をやっていられる世の中を作りたいものだ」
と言って、源の方を向き、
「将軍様のご威光をもって必ずそういう世を作る」
と微笑みながら言った。
源は、感動のあまり涙が頬をつたった。
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