12月19日

1/1
前へ
/153ページ
次へ

12月19日

朝から目眩がある。 お布団の中で眠って過ごす。 度々、電話やメッセージに起きて、対応した。 泊まっている宿に山の絵が飾られている。 東北地方の山脈を描いたもので、陶板製だ。 焼き物特有の柔らかで淡い色彩や艶やかな質感が気に入って、飽かずに眺めている。 地元の無名の陶芸家の物と伺ったが、いい物が見れた。 いつもなら旅では必ず美術館や博物館を訪れるのだが、今回は体力温存で断念。 観光ではなく、ゆっくり旅の異世界を楽しむことにした。 午後からは、自分用のお土産の整理をしていた。 神社で購入した手作りのど飴。 ガチャガチャでゲットしたクリスタルのダイオウイカ。 本を売った店で見つけた傘をさすカエルと小鳥のオブジェなどなど…。 三脚蛙を旅に連れてきたおかげか、素敵なカエルグッズがたくさん買えた。 人にも幸運の福カエルをプレゼントした。 昔から気の張らない気軽なプレゼントというと、だいたい鳥かカエルのオブジェを選んでいる気がする。 昼過ぎに散歩がてら、こないだ見つけたパン屋に行くと、 「君を乗せて」のインストゥメンタルバージョンが流れていた。 一切れのパンどころか、いくつも菓子パンを買ってパン屋を出る。 店を出たとたん、歌ってしまう。 その夜… 一枚の蟹の絵をもらうことになった。 寝ている場合じゃないなと、慌てて絵を見に行った。 無名の作家の物と聞いたが、市場価値でははかれない強いオーラがある。 三匹の蟹、そのオーラに触れているうちに昔見た村山槐多の絵を思い出した。 決して明るくはない。描くことの苦悩をありありと感じる絵だと思った。 不思議なのは、それが生前形見として私の元にやってくるという縁だ。 思えば昨夜やってきた焼き物もやはり生前形見だった。 本来、その形見を受け継ぐべき人(女性だった)は既にこの世にいない。 以前その女性のお墓参りをしたーーという奇妙な縁で私は陶器を受け取った。 夜、「人間失格 太宰治と三人の女たち」を観た。 私にとって太宰で一番好きな作品は「富嶽百景」だった。 映画を観終えた後、なぜかわからないが「十二月八日」が読みたくなり、読んだ。
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加