12月14日

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12月14日

実家から夜明け前に出発。 介護で途切れがちな睡眠をカバーするため、電車の中で眠る。 到着。 指定された待ち合わせ場所は、うなぎ屋さんの前。 「八」の文字がつく、縁起が良さそうな店の名前だ。 空は碧、ドライブ日和。 風を切って、眺める街の横顔。 つくづくと自分は人が暮らす街並を旅するのが好きだなと思う。 今回の旅に目的地はない。 会えた人と成り行きまかせだ。 まずは「一番好きな映画」と言われて、二人でファンタスティック・ビースト3を観た。 2を観ていなくても、面白い。 子鹿じみた可憐な麒麟にグッとくる。 やがて、お腹が減って台湾料理の店に行く。 席に八福神が飾られている。 別名、ハナキリン。 花言葉は「早くキスして」というらしい。 八福神に見られながら、ニンニクとニラたっぷりの台湾ラーメンを食べる。 440円也。 八幡宮わず。 境内で金のイヤリングを片方落とす。 その日はまるで決められていたみたいに、片っぽづつ違う物をつけていた。 落としたのはI(アイ)の形のイヤリング。 残ったのはV(ブイ)の形のイヤリング。 神様への捧げ物と思うと、すこぶる気分がいい。 砂丘わず。 ウミガメのナミダに出会う。 転ばぬように風に飛ばされぬように車を汚さぬように、歩かずに眺める砂丘。 車のスピーカーから DENIMS「そばにいてほしい」 か流れている。 「泣かせないでよ」と呟くのがやっと。 これからのことを真摯に口にする。 「…君はね、私の人生にとても大きな影響を与えてくれているんだよ」 車は駅に向かって走る。 次の行先も未定。 ググりもしない。 「よかったら、●●に一緒に行かない?」 数ヶ月前に人から聞いたひどく寒そうな地名だけが心に強く染み付いている。 カーウインドウから吹き込む風。 何処から不意に聴こえる。 「カ・ミ・サ・マ・ノ・イ・ウ・ト・オ・リ」
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