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都市へ向う連絡船の中で、三人は投影機を囲んでいた。透明な箱の中に三人の地球人たちが映っている。
代表者は顎に手を当てて何かを考え込んでいる。生物学者と言語学者は議論の真最中だ。
「おれは、地球人はユクスキュル人には嗅ぎ取れない匂いで会話しているんだと思いますよ」
生物学者が言った。
「例えば、極端に大きな分子や極端に小さな分子を、出したり嗅いだりしているのかもしれません」
「それはありえませんね」
言語学者が丸い機械を持ち上げてみせた。
「この翻訳機にはユクスキュル人が嗅ぎ取れない匂いも拾える、特殊な録香器が付いているんですが……地球人は、言語として使えるような複雑な匂いを出していないようです」
「じゃあ、地球人が立体映像を認識できなかったのはどうしてなんでしょう」
「わたしは、地球人とユクスキュル人は耳のしくみが違うんだと思います」
言語学者が言った。
「この投影機は、箱の中に音を満たすことで映像を作り出すんです。その映像が分らないということは、そもそも地球人の耳は音を感じないのでしょう。もしかすると、別の感覚器官で物のかたちを認識しているのかもしれません」
「それはありえませんよ」
生物学者が拡声器型のカメラを持ち上げてみせた。
「透聴カメラで地球人の体のつくりを調べたのですが、耳や鼻や目など、感覚器官のしくみはユクスキュル人とほぼ同じでした。例えば耳には、ユクスキュル人の鼓膜と蝸牛にあたる部分があります。ユクスキュル人は、物の表面で跳ね返った音を蝸牛で受け止めて、その物のかたちを認識しているんです。地球人も同じように世界を捉えていると考えて間違いありません」
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