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「そんなんじゃだめ!」
飛んできた罵声は俺の耳をきれいに通り抜ける。
俺は音程の合わない声をひたすら出し続けた。
かすれた声はいつまでも治らず、ただ俺の高い声だけを奪っていく。
「中江!真面目にやれよ」
やってるから。
真面目に歌ってる。
だけど友達はそれをわかってくれない。
そうだよな。
お前はまだ声変わりを知らない。
俺はそのまま楽譜を歌い続けた。
だが音程は合わない。いや合うはずもないのだ。
合唱コンクールまで残り僅かだというのに俺のせいで。
友達は俺をもう見なかった。
かすれた声は俺の舌も止めるようだ。
何も言うことができなかった。
突き出てきた喉仏は、俺の目の前に壁を作ったよう。
俺はそのまま黙ると、もう歌おうとはしなかった。
完
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