ニ話  バスツアー

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ニ話  バスツアー

「そうか~お前はペロって言うのか~可愛い名前だね~ペロほら猫じゃらしだよ~ほらほら~ほら~広写真早く早く写真」   「今度は猫にご飯タイムだってよ。餌俺、買うね。お前はやらないの?」  「俺はいいよ」「じゃあ広また写真頼むよ」   「はいはい、孝写真撮れたよ」 「本当だ!ばっちりちゃんと撮れてるじゃん。ありがとう。テーブルでジュースでも飲むか」  「そうだな」高野広と宮崎孝は赤ちゃんの時からマンションの部屋が隣同士で小学 中学 高校 大学と同じ学校に進み今は大学三年生だった。二人は動物好きで大学では動物愛護サークルに入っていた。でもそのサークルは毎日活動しているわけではなく月に二回程度だった。   二人はマンション住まいだったので動物を飼う事ができなかった。その為二人は暇になると近くの猫カフェに通っていた。   ジュースを飲みながら高野広は宮崎孝に言った。   「孝~お前虚しくないか?彼女もいない男二人で猫カフェなんて、結構通ったけど~周り見てみろよ。カップルか、女友達同士じゃないか~それに~おい、なんか皆俺達の事見てないか?なんか?俺達カップルに見えてるとか?」  「おいおい、広~どうみたって俺達はただの猫好きの友達にしか見えないから大丈夫だよ」二人は そんな話をしながらテーブル席に座ってジュースを飲んでいた。   いつもと違う事は、孝が言った次の言葉だった。  「そろそろお前がそんな事言って来ると思っていたんだよ~これ行ってみない?この前さ~駅前を歩いていたらさ~チラシ配っててさ~貰って来 たんだよ」   広は孝が持っていたチラシを見た。  「えっと、クリスマス動物ふれあい日帰りバスツアー?動物好きな男女限定。「合コンバスツアー 」 バスの座席は抽選でこちらが決めた席に座ってもらいます。男性同士女性同士にはならないようにいたしますので安心してください。   「今年こそ彼氏彼女を作りましょう」最後はスペシャル秘密の体験がありますのでお楽しみに」チラシにはそう書いてあった。   孝は「広~これ申し込もうぜ!今年こそ彼女ほしいしな!もう俺ら大学生だしよ彼女いないなんて大学のサークル仲間に恥ずかしくて言えないよ」 「そうだなー。俺も彼女ほしいよ」   孝は「広ならそう言うと思ったよ!ほら朝食もお昼もクリスマスのスペシャルな豪華食事って書いてあるよ。それにこのチラシのモーニングとランチの豪華な写真を見ても一万円って安いじゃん。   バス代も入ってさ~。それにしても最後のスペシャル秘密の体験が気になるなー?あと、旅行会社の名前聞いたことないところだね?ふれあい旅行会社って?」   広は「この値段だよ~彼女ができるかも知れないじゃん。孝が持ってきたんだぜ~申し込もうよ。今電話掛けようぜ」孝は「わかった」そう言って「ふれあい旅行会社」に電話を掛けた。   「ありがとうございます。二名様ですね。料金は当日バスに乗る時にお渡しください。はい12月の25日の日曜日に朝は少し早めですが遅れないようにお願いいたします。朝5時30分に駅前広場にお願いいたします。この度は数ある旅行会社の中から私どもの会社ふれあい旅行会社にお申し込みいただきありがとうございました。では25日の日曜日の朝5時30分に駅前広場でお待ちしています。   当日は10分前に集合してください。それでは担当の牧野が承りました」担当者がそう言うと広は電話を切った。   二人は「これで25日のバスツアーで彼女ができるかもそれないな~」そう言って胸の高鳴りを押さえきれなかった。   そして、25日バスツアーの当日になった。   二人は彼女ができることを想定して女の子との話し方やファッションなど勉強して当日に望んだ。  抽選の結果、孝の隣には河野薫と言う可愛い女の子が座った。広の隣には茂木鈴と言う女の子が座っていた。ツアーの参加者全員が動物好きだというだけあって会話はとても弾んで楽しいバス旅行の始まりだった。   広と孝は女の子と意気投合してラインを交換した。一番始めに着いたところはクリスマスモーニングを食べさせてくれると言うホテルのレストランだった。朝食を食べるとホテルの裏にある動物園で自由行動だった。   孝も広も座席が隣の女の子と動物園で兎に餌をあげたり抱っこしたり動物とふれあう楽しいバスツアーに満足していた。   次に着いたのはクリスマスランチのフルコースだった。次から次に豪華な料理が運ばれて来たのでツアーの参加者達みんな「美味しい。これで一万円~」そう言って満足していた。   その後、参加者達はテレビで話題の動物園に行ったそこの動物園は広いので自由行動三時間もうけてくれた。  その頃にはみんな座席の隣の人と親しくなっていた。そして、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。三時間が経ち参加者全員バスの前に集まった。そして、バスガイドさんが参加者全員に言った。  「皆様バスツアーは楽しかったですか?いよいよ次はチラシにも書いてあったように動物とのふれあい体験スペシャルな秘密の体験が経験できますよ」バスの前は急に騒がしくなった。「えー。どんなスペシャル体験?」「楽しみ~」次の瞬間バスガイドは参加者に言った。  「この広い動物園の珍しい動物をこのツアー参加者限定で一人ずつ小さな裏のドアから入って間近で見てもらいます。中は狭いので一人ずつしか入れないようになっています。出口は入ったら中にありますのでそちらからお願いいたします」 そう言った。   参加者全員寒い中一列に並んで前から順に一人ずつ部屋の中に入って行った。   孝と広はバスの座席が一番後ろだったので一番後ろに並んでいた。「寒いな~孝どんな動物が見られるのかな?」「俺も楽しみだよ」「女の子の列は少し離れた右のドアだから離れちゃったけどね。 またバスで帰るんだ。その時に会えるよ。LINE交換したんだろう?」「勿論したよ広もしただろう」「勿論したよ鈴ちゃん可愛かったしな」「薫ちゃんも可愛かったよ。そうだ今度帰ったらダプルデートしようぜ」「いいねー」そんな話をしていると孝と広の列は随分前の方になっていた。   そして、30分ほどして二人はおかしな事に気づいた。孝は広に耳打ちをした。   「広~おかしくないか?バス停に誰も戻って行ってないような気がする。出口が中にあるって言ってもバスが俺達の近くなのに誰も戻ってこないなんておかしい。   それに狭いから一人ずつ中に入るんだよね? それなのに誰も戻って来ない。中にみんないるのか?何かあったんじゃあ?」広は「俺も変だとかんじたけど、気のせいだよ。ここの動物園はテレビでも有名なんだから考え過ぎだよ」「そうかな~?」 二人がそんな話をしているとバスガイドさんが二人に言った「心配しなくてもこの建物の裏に休憩所があるからそこで温まってもらってるのよ。寒いからね。そうだ最後だから二人で中に入ったら?」  二人は「いいんですか?」バスガイドさんは「いいわよ」そう言ってにっこりと笑った。 そして、ついに僕達二人の番になった。 僕達はドアを開けて中に入った。 そこにいたのは肉食獣の虎やライオンだった。   そう、スペシャルな体験とは動物の餌になる体験だったのだと二人は悟った。だから参加者は誰もバスに戻って来なかったのだ。だから秘密なのだ。  二人は肉食獣に囲まれてしまった。 そして、二人は肉食獣の餌食になってしまったのだ。 二人が肉食獣の餌食になっていた頃 動物園の園長がバスガイドとバスの運転手に近づいて言った。  「いつもありがとうございます。このご時世動物達に餌も満足に与えられなくて困っていたんですよ。餌を運んで来てくれて助かります。これ餌代です」 バスガイドは言った「いいんですよ。旅行も最近は、参加する人が減少傾向なので、助かります。お互いこれからも協力しましょう。それではいつものように餌の食べ残しの片付けお願いしますね」 動物園の園長は「はい」と返事をした。 バスガイドは最後に言った。 「来月もツアーの人数が集まりましたら連絡しますね」そう言うとバスの方に戻った。   誰も乗っていないバスはまたどこかの駅前に止まりツアーのチラシを配っている。 そうどこかで。。。   そして、明日も人気の動物園と旅行会社は誓約を交わしている事だろう。。。   動物園では孝と広の叫び声が響いていた。「わ~くるなー、止めてくれー。孝~孝~」  遂に二人は動物園の事情も知らないまま動物の餌になってしまったのだ。   そして、二人の周りにはたくさんの人間の骨が無数にあった。   次の日のニュースで動物園の餌不足が深刻だと言うニュースがテレビで流れていた。どこの動物園も日本の経済事情から餌不足なのにこの晴海動物園だけは餌不足にはならなかったらしい。 完
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