一話 初めて入った店のはずが……?

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一話 初めて入った店のはずが……?

「今日はついてたなー。あの大手の電気メーカーの会社のオフイス用コピー機を五台もリース契約結ぶ事ができて。   これで今月の目標ノルマは達成したぞ!今日は家に直帰でいいって会社に電話したら上司の村田支部長も言ってたしな!そうだせっかくだからこの辺をブラブラしてから帰ろう。銀座は初めてだしな。そう言えば……後輩の佐久間が言ってたな~銀座も細い脇道を入ればワインの美味しい店とか?和食の美味しい店とか?見つけることができるって。   銀座は高級ってイメージが僕の中ではあるんだけど~今日は直帰だし、今月のノルマ達成したし、そんな店あったらまだ夕食には少し早いけど、細い脇道に入ってお酒を飲んで軽くご飯でも食べるか。   銀座は初めてだから道に迷わなければいいけどね」鈴木拓磨は銀座で一人そんな事を考えながら歩いていた。鈴木拓磨の仕事は、オフィス用品を会社にリース契約をしてもらう為のオフィス用品の営業をする仕事をしていた。   今日は大手の電気会社の本社が銀座に移転して来るという情報をマスコミの友人から聞きつけ銀座に来たのだ。鈴木拓磨は他の会社の営業員よりもタッチの差で大手の電気会社の本社に行くことが出来た為にコピー機五台をリースする事に成功した。 今の鈴木拓磨は喜びに満ちていた。   「あ~今月も営業トップの成績だ。目標を達成した時が一番この仕事にやりがいを感じるよ」鈴木拓磨はそんな事を考えながら初めての銀座の細い道をただ一人、歩いていた。   しばらく細い道を歩いていくと銀座の大通りの裏道に出た。「ん?あれは~佐久間が言ってたワインが美味しいお洒落な店じゃないか?ドアのところの小さなランプまわりには小さな花壇があって美しい花を咲かせている。ドアの取っ手もイタリア風でお洒落だ。窓にクリスマスの飾り女の子が喜びそうだな今度、彼女でもできたら連れてくるか~なんて仕事ばかりの俺に彼女なんて出来ないだろうな~でも出来た時の為の偵察だ!入ってみるか」   鈴木拓磨は「ワインと軽食の店ランプ」のドアを開けた。中から女性の店員がドアのところに来てて「いらっしゃい~誰かと思ったら拓ちゃんじゃない~毎週金曜日に来てくれてるのに~ここんとこずっと来てくれないから心配してたのよ~とにかくそこに座ってちょうだい。いつものでいいわよね?」鈴木拓磨は自分に話しかけて来た店員に言った。   「あの~僕、初めてこの店に入ったんですが~」女性店員は「拓ちゃん何の冗談?あら~山田 さん~拓ちゃん来てるわよ」鈴木は「あの~誰かと~」そう言いかけたが女性店員は今度は常連らしい山田と言う男の近くに行った。  「山田さんはいつもと同じように拓ちゃんの隣の席でいいわね?」   店員はそう言い、鈴木拓磨の隣に山田と言う男を座らせた。山田は鈴木拓磨に話し掛けた「拓ちゃん久しぶり~風邪でもひいてたの?寒くなってきたし店の皆も心配してたんだよ」鈴木拓磨は店の店員と山田に言った「誰かと勘違いしてませんか?僕はこの店に来るのは初めてなんです」すると、店員と山田は鈴木拓磨に聞いた。「名前は?」鈴木は「鈴木拓磨です」山田は「だよね~じゃあ歳は?」鈴木拓磨は「35歳です」そう答えた。   店員は「じゃあ仕事は何やってるの?」鈴木拓磨は「オフィス用品を大手の会社にリースする仕事をしています」山田は言った「だよね。それで拓ちゃんは営業部門でいつもトップ成績」鈴木は驚いた。   「何で~?俺の事を知っているんですか~?調べたんですか?」山田と店員は笑いながら鈴木拓磨に言った「何言ってるの~拓ちゃんが毎週金曜日に店に来て自分で言ってるんでしょう?何度も酔っぱらって~そうだ先月営業してたらお客さんを怒らせて塩を巻かれたとか言ってなかった?長い愚痴を聞かされて私と山田さんが拓ちゃんを励ましたのよ。来月頑張ってってね」   鈴木は驚いた「えっ?何でその事を?俺は自分の失敗を他の人に絶対に言わない」   山田は「おいおい……悪い冗談止めろよ拓ち ゃん」   その時、また別のお客さんが店のドアを開けた「あれ?拓ちゃん久しぶり~。みんな拓ちゃんが来てるよ。風邪でもひいたんじゃないかと心配してたんだぞ」山田も店員も言った「ほらみんな拓ちゃんだと言ってるぞ!本当に初めて?」鈴木拓磨は「本当です」そう言った。  「じゃあこのワインのボトルも拓ちゃんのじゃないのか~」鈴木拓磨は「違います」そう答えた。  店員と山田は常連客に言った「なんか名前も同じなんだけど拓ちゃんじゃないんだって全くの別人みたいよ。世の中には似ている人が三人いるっていうからね。   じゃあ拓ちゃんじゃないなら俺は今、来た常連達の席に行くよ」鈴木は「済みません。僕に似てる人は毎週金曜日にここに来て、仕事も同業者だけど愚痴をよく言う人なんですね~そんなに似ていますか?」鈴木が山田に聞くと「声も顔も髪型もそっくりだよ。久しぶりに拓ちゃんと飲めると思ったのに残念だよ。世の中には三人似ている人がいるって言うし、その一人だよ君は」そう言って山田は笑いながら別の席に移動した。   鈴木はせっかく来たのだからと思いチーズの盛り合わせとワインを頼んで一人で飲んでいた。すると、店のドアが開いた。   チリンチリンとチャイムの音の代わりにドアを開けると鳴るベルの音が心地いい音を奏でていた。 店の常連客と店員が一斉にその店に入って来た客の姿を見て驚いた。店員は「いらっしゃいませ。拓ちゃんですよね?」他の常連客も言った「今度は拓ちゃん?」   その男は言った「なんなの?鈴木拓磨だよ。毎週金曜日にここに来る。久しぶり~みんなごめんなかなか来られなくてね。仕事が忙しくてさ~今日はノルマ達成したから大丈夫だけどね。大手電機会社にコピー機五台もリースしたんだよ。またトップ成績かな」そう男は言った。  その時、ワインとチーズの盛り合わせを頼んで 飲んでいた鈴木拓磨はその声の方をじっと見ていた。  「えっ?俺?まるで鏡を見ているみたいだ」   拓ちゃんって呼ばれているその男も椅子に座っている鈴木拓磨に気づいて拓磨の側にどんどん近づいて来た。そして、その男は座っている鈴木拓磨に言った。「君誰?」鈴木拓磨はその男に言った。「鈴木拓磨です。あなたに似ていると言われたばかりです」ところがその男は鈴木拓磨に言った。   「嫌、違う俺が鈴木拓磨だ。君は俺の偽物だよ」鈴木拓磨は「えっ?何言ってるんだ!ただのそっくりなだけですよ」   その、男はまた言った。「名前も仕事も同じ なんて事あるかい?君は偽物だよ。君が消えてくれれば済むんだよ。消えてくれないかな?僕がここで生きていく為に。この世界が気に入ったんだよ。毎週金曜日にしか来られなかったんだからね」   鈴木拓磨はその時、思い出した。「そうだ、毎週金曜日はいつもなら会議の日だって決まってた。なのに今日は特別営業日と突然会社で朝言われて社員は朝から営業をする事になったんだ」   その男は言った。「そうだよ。だから金曜日にしか僕は自由になれなかったんだ。だから消えてよ。僕がここで、この世界で生きるから」鈴木拓磨は「何言ってるんだお前が消えろ」山田は皆に言った「もしかしたら?ドッペルゲンガー?だとしたらもう一人の自分を見てしまったら、出会ってしまったらその人は死んでしまう~」   その時、椅子に座っていた鈴木拓磨は椅子から落ちた「ドスン」と言う大きな音がして鈴木拓磨はその場に倒れた。   店の店員と常連客は倒れた鈴木拓磨に「大丈夫ですか?鈴木さん、鈴木さん」そう声を掛けたが鈴木の反応はなかった。   救急車が来た時にはもう鈴木は亡くなっていた。店の店員も常連客も「ドッペルゲンガー」の事は信じてもらえないと思い誰にも言わなかった。   二人とも消えてしまうと思っていた定員と常連さんだったかが、もう一人の鈴木拓磨は今もこの店に通っている。   人が一人死んだことも忘れて……救急車が来た時も、もう一人の鈴木拓磨は救急隊員に聞かれた「倒れた人の事を教えてください」と、もう一人の鈴木拓磨は救急隊員に、たんたんと答えていた。「名前は鈴木拓磨~職場は~」と、ドッペルゲンガーに出会ってしまった二人のうち一人は死んで、もう一人は生き続けて今でも「ワインと軽食の店ランプ」に通いワインとお摘まみを注文して楽しんでいる。 完
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