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「あ、そうだ。お名前を伺っておりませんでしたね。警察から通報者の名前確認等があるかもしれませんから、宜しかったらお名前と連絡先を控えさせていただいてもよろしいでしょうか?
私はここでオーナーを務めさせていただいております栗山と申します」
チャコ叔母さんは男性に自分の名刺を渡して男性の名前と連絡先を事務的に確認していた。
(あっ! そうだ! 私、自分の名前を名乗ってなかった……)
男性が名刺を受け取った瞬間にハッとする。
長時間私の為に色々と付き合って下さっていたのに、名前も言わないで帰らせるだなんて失礼じゃないかって思ったんだ。
「栗山久子さんですね、この度はお世話になりました」
男性は丁寧で美しいお辞儀をして
「自分は、阪井蒼と言います。連絡先の携帯番号は……」
続いてチャコ叔母さんに連絡先を書いたメモを渡していた。
「なるべく阪井さんにはご迷惑のかからないようにします。道中暗いですからタクシーを呼びましょうか?」
「いえ、近くですし自転車で来てましたからこのまま帰ります」
「そうですか……では、お帰りお気をつけて」
チャコ叔母さんと阪井蒼さんの丁寧なやり取りを目で追いながら、私は自分の名前を名乗るタイミングをはかる。
(あっ……阪井蒼さんが帰っちゃう! どうしよう!!)
阪井蒼さんが踵を返して自転車の置き場所までスタスタ歩いていくのを目の当たりにしていたら、居ても立っても居られなくなっちゃって
「あのっ! わ、私っ!!」
急いで阪井蒼さんを追いかけた。
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