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「蒼くん」
俺の泣き声が落ち着いてきたところで、それまでずっと背中を撫でてくれていた健人さんの掌の動きがピタッと止まった。
「蒼くんにね、良い桜スポットを教えてあげるよ」
「へ?」
「ずっと向こう側だから、ここの商店街の人らもあんまり行かないところなんだけどさ。川沿いにずーっと桜が並んでてね、結構良い場所でね」
そして、俺が行こうと思っていた人気スポットとは反対方向の場所を教えてくれた。
「ここから歩くとかなり遠いんだけどさ、本当に良い場所だから。
1人で行くのは寂しいかもしれないけど、そこの桜も蒼くんを優しく迎え入れてくれるよ」
「優しい」で打ちひしがれた俺の心に、「優しい」の言葉が沁み込んでいく。
「本当に?」
もうハタチ過ぎているというのに俺はガキみたいな弱々しい声を出しながら、ようやく顔をあげて
「本当だよ、桜のパワーは凄いんだ。香りは風に乗って蒼くんを絶対に温かく包むし、心を癒して勇気をくれるはずだよ」
健人さんの優しくて強い眼差しを一心に受けた俺は、「優しいが一番だ」という教えをもう一度信じてみたいと思ったんだ…………。
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