Chapter10:秋の味覚をご一緒に

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「それは辛いね、あおくんにとっては」 「多分母さんは俺に『お兄ちゃんなんだから妹と弟を大事にしろ』って意味で言ったんだろうけどさ……明らかに愛情に差をつけられてるみたいで、ガキの頃から母さんのその言葉が嫌で嫌でたまらなかった」  そう話しながら、あおくんは濯ぎ用の水をザーッと出して泡だらけの食器を洗い流す。 「……」 「……」  食材の色が混じった、決して綺麗とは言えない泡。  それを水の力で泡をシンクの排水口へと押し流そうとするあおくんの様は、まるで今まで抱えてきた過去に対して、泣きたくても泣けない涙を流しているようにも感じられて……。 「すすいだお皿、私にちょうだい。フキフキするから」  彼に手を差し伸べ濡れたお皿を受け取ろうと、体が自然と動く。 「ありがとう、はな」 「うん」  お皿を渡してきたあおくんは、痛々しい笑みを私に向けた直後…… 「今はもう大人になったから、母さんの言葉に何も感じないっていうか……どうでもいいやって気持ちでいるよ。  親の離婚で俺は阪井家の跡取りって名目で父さんに引き取られて、妹弟は母さんが引き取ってって、きょうだいが引き離されたけどさ。何にも感じないんだよ『妹と弟は母さんと気が合いそうだし、これがベストなんだ』って思っていうか」  また話をしながらザーッと水を出しながら次々と食器を濯いでいく。
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