Chapter:12 クリスマスの夜に

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「ふふっ♡ はな、可愛い♡」  ニコニコはいつも通りだし、言葉はハッキリ喋っていて呂律が回るという事もない。 「やぁん……恥ずかしい」  だけど、声質はいつもと違う気がする。 「恥ずかしがらなくていいのに。俺とはなしか居ないでしょ」 「そうなんだけどぉ……」    エレベーターの密室だからこそ感じられる、彼のゆったりしっとりとした発語やその発声と共にほんのりと浮かび上がる水蒸気の立ち上り。 「ふふふ♪ お部屋入るの楽しみだね♪」  エアコンの暖房で適度に暖められた周囲の空気には負けないくらいの熱を彼は発している。 「う……うん」  私はコクンと頷きながら「やっぱり酔っ払ってるのかな」と、いつもとは違う些細な点による違和感を察していた。 「じゃあ、開けるね」 「うん」  エレベーターを降りて、左に曲がってまっすぐ歩いた突き当たり。  そのドアにカードキーを(かざ)してあおくんは部屋の扉を開けた。
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