1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
2
──三日後。お店に着くと、まだ江上さんは来ていなかった。今日もあの新しいコーヒーを淹れよう、と考えながら給湯室へ向かうと、ソファーで何やら難しそうな本を読んでいたおじさんが顔を上げた。
「今日新しいお茶を入荷したからさ、それを淹れてくれないかな?」
「新しいのまた買ったんだ。今淹れるね」
「あっ、今はいいんだ」
おじさんは本を置いて手で制した。
「江上様がいらした時お願いしてもいい?」
「わかった」
てっきりおじさんが飲みたいのかと思っていたが、そうではないようだ。ひょっとすると江上さんのために買ったのかもしれない。
改めて給湯室へ入ると同時にからんとドアベルが鳴った。そっと顔を出すと江上さんだ。
早速頼めれたお茶を淹れることにした。新しいお茶は紅茶らしい。お湯を沸かしながらあまり使っていないティーポットを引っ張り出す。ティーポットを念の為洗って、茶漉しにお茶っぱを三杯淹れた。お湯を注ぎ、説明通り三分放置する。その間余ったお湯でカップを温めておいた。
しっかりと蒸らし、紅茶をカップに注ぐ。パッケージを見る限り、ハーブティーのようだからミルクはいらないだろう。
給湯室にいつもと違う華やかな香りが広がった。
紅茶を持って江上さんの前にことりと置く。そっと顔色を伺うと、三日前に比べて少し明るくなっていた。おじさんにも紅茶を渡して、この前と同じ少し離れた席へ向かった。
「先日はありがとうございました。いつも薬飲んでもなかなか眠れないのですが、よくハーブが効いて」
えっ……どきりとして振り返る。ハーブに薬……一瞬嫌な想像が膨らんだ。
「ラズベリーの香りはいいでしょう。シトロンの香りもありますよ」
なんだ。おじさんが薬なんて薦める訳ないよね。
どうやら前回おじさんは香り袋を渡したらしい。恐らく、薬というのは睡眠薬だろう。
最初のコメントを投稿しよう!