そのころサンタさんは

2/2
前へ
/5ページ
次へ
 しばらくの間、お腹がちょっと苦しいな、と思いながら、サンタさんはせっせとプレゼントを配っていきました。  ところが、ある家に入ったとき…… 「わん!」 「ひゃあ!」  ツリーの下にいた犬に気が付かず、突然吠えられてびっくり。プレゼントを置いて、一目散にソリまで走りました。  ……おや?  嫌な予感です。さっきまできつかったお腹が、全然苦しくありません。おそるおそる見てみると、やっぱり! 「サンタさん、リボンはどうしたんですか!?」  ずり落ちたズボンを見て、トナカイたちが驚いた声をあげました。 「すまん。どこかに落としてしまったようじゃ」  サンタさんはしょんぼりと肩を落としました。 (本当のところは、先ほどの犬が喜んで遊んでいるのです) 「もうリボンはないし、どうしましょう……」  困りました。プレゼントはあと半分も残っています。  ズボンのお腹の辺りを見つめているうちに、サンタさんはいいことを思いつきました。そして、パチンと指を鳴らしました。手袋をしているので、音はしませんでしたが。 「そうじゃ、結んでしまえばいい!」  ズボンのゆるいところを前に集めてきて、お腹を引っ込め、手に力を込め、うんうんうなって、なんとか結びました。 「ふうむ、どうじゃ? だいぶきつくなったが、これで落ちてくるまい」  トナカイたちは感心しました。 「なるほど!」 「これなら大丈夫!」 「サンタさん、いいアイデアですね!」  ほめられて口の端がむずむずしたサンタさんは、なんだか元気が出てきました。  それから、あっちの家こっちの家と、休まずプレゼントを配り続け……  とうとう最後の家にやってきました。 「よし、ここで終わりじゃ!」  ふうふう言いながら入った家の中には、大きくて立派なクリスマスツリーがありました。  その下に、最後のプレゼントをそっと置くと、サンタさんは、ほうっ、と息をつきました。  いつもより少し遅くなりましたが、ベルトは忘れてしまいましたが、おまけにリボンも落としてしまいましたが、とにかくすべてのプレゼントを配り終えたのです。  ふと窓の外を見ると、ずっと向こうの山の上が、うっすら明るくなっていました。 「こりゃいかん!」  みんなが起きる前に行かなくてはなりません。  サンタさんは空っぽになった袋を抱えて、逃げるように家を出ました。いつもより急ぎ足でかけ回っていたからでしょうか。外はとても寒いというのに、汗をかきかき、全速力で走ります。  今か今かと待っていたトナカイたちは、ソリに飛び乗ったサンタさんを見るなりすぐに出発しました。  シャンシャンシャン……  鈴の音を響かせ、ソリは空高く飛んでいきます。  遠くに見える金色の朝の光が、もうすぐみんなの町を照らすでしょう。   「メリークリスマス! 世界中のみんな!」  サンタさんは、今度こそ本当に満足して、にっこり笑いました。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加