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大学に入ってすぐ、新入生歓迎会のあと、外でサークル勧誘をしていた先輩に声をかけられた。
眩しい笑顔を向けられて、笑顔で説明をしてる間、看板を持っていた逞しい二の腕に視線が釘付けになり、話の内容なんかほとんど入ってこなかった。パンフレットを渡されたあと、看板をもってないほうの手が私の肩にそっと触れた。
「俺、待ってるから…」
俺?俺待ってる?って?
それってどういう意味?
そんな魔法の言葉がずっと気になってた。きっとそうやってみんなに言ってるんだろう。でも。その言葉が耳から離れない。
何のサークルだったかな…。
よくわからないけど、みんなで話題のカフェに食べに行ったり、映えるスポットに出掛けたりパワースポットを巡って、写真を撮ってサークルのブログにあげると言ってたような。よくわからないけど、楽しそうだ。
夏には合宿もあるらしい。
会合に早速顔を出したら帰りに声をかけてきた。ミナッチと伍嶋くんと三人で加入した。ミナッチも伍嶋くんもあんな性格だから、すぐにみんなと打ち解けてる。あたしが少し乗り遅れて後ろの方で様子を見てたところにあの先輩が静かに近づいてきてそばで声をかけてきた。
「来てくれたんだ。」
「あ、はい…。一応、見学で…」
「嬉しい。来てくれないかなって思ってた。君のこと待ってた…」
「え…」
先輩の反則なズルい瞳がこっちを見てる。
そんな風にされたら、勘違いしちゃうじゃん…。
こういう人はきっといつもこうなんだから。騙されちゃいけない。
そう思ってたのに。
気がついたらずっと目で追ってるし。
先輩が輪のなかで何かみんなに話すたびにその場が沸き、笑いが溢れる。
そしてその先輩の視線が最後にこっちに向かってきて、私と視線が絡み合う。
アイコンタクトでもしてくるみたいに…。
帰り際に先輩が寄ってきて声をかけた。
「あのさ…、連絡先、聞いてもいい?」
「え?あ、はい…」
ドキドキな1日だった。
あれから、時々連絡が来るようになって。
そして今日に至る…。
いま、あたし、ここで何してるんだっけ…
憧れのサークルの先輩とのデート。
夕御飯を食べて帰るはずが。
お酒なんか飲めないくせに大人な雰囲気のバーにいる。
夢のようで信じられないこの現状のなんだか、戸惑いながらも…。
ワクワクして胸のときめきを押さえきれない。
とりあえず先輩がカクテルを注文した。あたしにはオレンジジュース。
先輩のスマホが鳴る。
その音で、遠くに行っていた私の意識がフッと目の前に戻ってきた。
「ちょっとごめんね、ワルい。」
そう言って先輩が席を立ったとたん、お腹がギュルっと音を立てた。
あれ。お腹が下ったかな…。
じっとしてたけど、おさまる様子がない。冷や汗もでてきた。鳥肌が全身を這う。
ヤバいじゃん。こんな姿、格好悪くて見せられない。
トイレトイレ。いくらな今だ。
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