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「変な顔。何考えてんだよ」
眉間にしわ寄せて、彼が聞いてくる。
苗字思い出していました、とは言いづらい。
「あ、この花。なんていうのかな? って」
とりあえず、さっきの疑問を口にしてみた。
「花? 花って蓮華の事か?」
「れんげ?」
聞いた事がある気は、する。
だけど見るのははじめてだ。
「へぇ〜。これがれんげの花なんだ」
「マジ? 知らんのか」
彼がビックリしたように口をあんぐりとあけてる。
「ふふっ、ごめんね。知らなくて」
あまりに彼の表情が面白くて、思わず笑いがこみあげる。
「いや、ビックリだけど。そうか……当たり前だと思ってたけど、それがない場所もあるんだな」
この田んぼも、田んぼに咲く小さな花も、彼にとっては当たり前の景色。
でも私には新鮮な景色。
ふと、隣で影が動いた。彼が田んぼに降りたのだ。
「え⁉︎ ちょっ……」
思わず慌てる私の様子などお構いなしに、彼は田んぼでしゃがんだかと思えば、すぐに戻ってきた。
「い、いいの? 勝手に入ったりして」
「平気だよ。一瞬だし、端っこだし。昔は走り回って流石に怒られたけどな。蓮華は美味しいお米を作る大切なものなんだから荒らすなって。でも、ちょっと花摘むくらいは構わんって」
あ、やっぱ怒られるんだ。
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