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「ほら」
ぐっと彼が握りしめた拳にあるのは、れんげの花。
「はじめて見たんだろ? 記念に持っていけよ」
鼻を人差し指でこすりながら笑う彼は、やはりどこか少年っぽさが残っている。
「ふふっ。自分のものみたいに……」
「なんだよ、わりーか。だって瑠璃は蓮華見るのはじめてなんだろ?」
急に呼び捨てにされてドキッとする。
私の反応に、彼は事もなげにケロッとしている。
「なに驚いてるんだよ。名前、瑠璃だろ?」
「そ、そうだけど、いきなり呼ばれたらビックリするよ」
「そうはいうけど、お前が来てから親父もお袋もうるせえんだよ。『瑠璃ちゃんはいい子だ』『慣れるまで気にかけてやれ』って。ここんとこ、ずっと『瑠璃、瑠璃』聞いてるよ」
知らないところでそんな会話が繰り広げられてるとは。
「な、なんかごめん、ね?」
「別に。うちの親も紫乃ばあちゃんの事は気にしてたから。お前が来て、嬉しいし安心してるんだよ」
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