蓮華

5/5
前へ
/80ページ
次へ
「別にっ。泣き止んだなら返せよな」 「あ……」  洗濯して返そうと思ったのに、奪うようにタオルを引っ張られた。  勢いでタオルに巻き込まれて、蓮華の花もスルッと手からすり抜けていって、地面に散らばった。  慌てて私は蓮華の花を拾い上げた。  せっかくくれたんだもん。帰ったらちゃんと水をあげるんだ。 「なあ、瑠璃。今日これから暇か?」 「今日? 今からスーパーに買い物行くくらいだけど」 「なら、後でうちの店来いよ。泣かせちまったお詫びに、なんか飲んでけ」 「えぇ? 悪いよ」  そもそも泣いたのは私が勝手に泣いちゃったんだし。一樹くんのせいじゃない。 「親父の方針なんだよ。女泣かせたら責任とれって」  ふと、モーニングに行った時、一樹くんと口喧嘩していたのを思い出した。  あの時も思ったけど一樹くんって、なんだかんだと文句言いながらもお店手伝ったりとか、こうしてお父さんの言いつけ守ろうとしたりとか。優しいんだなぁ。 「ふふっわかった。じゃあご馳走になりにいくね」 「おう、じゃな」  いうが早いか、一樹くんは走り出した。  さっき貸してくれたおひさまの匂いがするタオルを首からかけて。 「走ってここまで来てたんだ」  そういえば自転車なかったもん。トレーニングとかかな?  小さくなっていく背中をみおくり、手に残された蓮華を見つめた。 「キミ達、私のためにごめんね。ちゃんとお世話するから、少しでも長く咲いてね」 
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加