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「別にっ。泣き止んだなら返せよな」
「あ……」
洗濯して返そうと思ったのに、奪うようにタオルを引っ張られた。
勢いでタオルに巻き込まれて、蓮華の花もスルッと手からすり抜けていって、地面に散らばった。
慌てて私は蓮華の花を拾い上げた。
せっかくくれたんだもん。帰ったらちゃんと水をあげるんだ。
「なあ、瑠璃。今日これから暇か?」
「今日? 今からスーパーに買い物行くくらいだけど」
「なら、後でうちの店来いよ。泣かせちまったお詫びに、なんか飲んでけ」
「えぇ? 悪いよ」
そもそも泣いたのは私が勝手に泣いちゃったんだし。一樹くんのせいじゃない。
「親父の方針なんだよ。女泣かせたら責任とれって」
ふと、モーニングに行った時、一樹くんと口喧嘩していたのを思い出した。
あの時も思ったけど一樹くんって、なんだかんだと文句言いながらもお店手伝ったりとか、こうしてお父さんの言いつけ守ろうとしたりとか。優しいんだなぁ。
「ふふっわかった。じゃあご馳走になりにいくね」
「おう、じゃな」
いうが早いか、一樹くんは走り出した。
さっき貸してくれたおひさまの匂いがするタオルを首からかけて。
「走ってここまで来てたんだ」
そういえば自転車なかったもん。トレーニングとかかな?
小さくなっていく背中をみおくり、手に残された蓮華を見つめた。
「キミ達、私のためにごめんね。ちゃんとお世話するから、少しでも長く咲いてね」
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