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それが去年の春、おじいちゃんが突然倒れた。
倒れてからはあっという間で。連絡をうけてすぐに向かったけど、私達が着いた時にはおじいちゃんは亡くなっていた。
あまり苦しまないで、すぐに意識を失ったまま亡くなったとの事だった。
棺に納められたおじいちゃんは、寝ているみたいに穏やかな顔をしていた。
だから、死んだなんて信じられなくて。
また夏に会いにいけば、笑顔で迎えてくれるような気がして。『大きくなったなぁ』って、いつもみたいに……。
でも、夏。おじいちゃんはいなかった。
かわりに仏壇の側に、おじいちゃんの写真が飾ってあった。
いつもの、くしゃくしゃって笑うおじいちゃんの顔。
私が大好きな、おじいちゃんの笑顔。
「ええ顔しとるだろ? この写真な、瑠璃に向けてなんだわ」
「え?」
おばあちゃんがおじいちゃんの写真立てを手に取り、そっと撫でる。
「桜を見に一緒に出かけたんだわ。そん時に『瑠璃に見せてやりたい』って」
確かに、おじいちゃんの後ろには桜の花が写っている。
「瑠璃に見てもらって、おじいちゃんも喜んどるわ」
おばあちゃんはおじいちゃんの写真を見つめながら大きく笑った。
そこにはさみしいとか、悲しいとか、そういう感情は見えなくて、おばあちゃんも優しい顔をしていた。
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