五流小説家

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 今、私はweb小説サイトにて長編の推理小説を投稿、日々数ページずつ公開している。  作成、推敲しながらの投稿だが、ノートにプロットは全て書き綴ってある。  完成してから投稿したいところだが、思いついたこの設定を早く公開したくて我慢が出来なかった。  物語が進むにつれ、増える反応、増えるコメント。 「誰が犯人なのか見当がつきません!」 「面白いです!早く続きが読みたいです!」  人気作家さんにも読んでいただいているようだ。  読者の反応が嬉しくて、つい自分は作家として優れているのではないかと錯覚する。  あちこちに張った伏線。  さぁ、伏線を回収しつつ、物語は最終章へ……!  あれ?  第一章の、犯人がキッチンへ向かうシーンが無い。  プロットにはある。  本文には無い。  え、ちょっと待って。  いや、これが無いとさぁ…。  マジで?  あれ?  どうしよう。  ……とんでもない『忘れ物』をしてしまった。  筋を通すために一番重要なシーン。  さりげなく書くつもりが、書くことすらしていなかったとは。  まさかこの時点で第一章の加筆修正するわけにも…いかんだろう。 「ははは…って、いや、マジかよ…」  深いため息と共に机に突っ伏す私。  設定に酔いしれて自分の作品を蔑ろにしてしまった私は、所詮三流どころか、四流、いや五流だったのかもしれない。   (おしまい。作家の皆様もお気をつけて)
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