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「誕生日前日に世界が始まる」
一人暮らしの家への帰り道。静かで暗い道を歩いていた。
ふと気づいて見上げたら、今日は、月が、青く見えて。
キレイだな。
そう思ったら、切なくなって、スマホを手に取った。
二十三時。こんな遅くに、普通は友達に電話はしない。
でも。
一人を選んで、電話をかけた。
三コールだけ。出なかったら切ろう。一、二……。
『もしもし? 凌?』
優しい口調の声に、心に刺さってたトゲみたいなのが、一瞬で溶けた。
「真也……」
『……お前まだ外?』
「帰るとこ」
『帰り途中?』
「うん。もうすぐアパート」
その時。
通りかかっていたマンションの、二階の窓が開く音がして。
ベランダから、こっちを見下ろす、男。
「凌。……何してんの」
苦笑いの真也。
「今帰り道で、通りかかったとこ」
そう返すと、真也は、ちょっとため息を付いた。
「上がってく?」
「……いいの?」
「そのためにそこから電話したんだろ? 今エントランス開くから」
そう言って真也は部屋の中に姿を消した。
オレがマンションの敷地に入り、一つ目の自動ドアを入った所で、奥の鍵付きの自動ドアが開いた。そこを通りぬけて、エレベーターに乗り込んだ。二階で降りると、真也がエレベーターの前に立っていた。
「寝るとこだった?」
「いや。まだ起きてた。後でお前に電話しようと思ってた」
「そうなの?」
「ん」
頷きながら、部屋のドアを開けて、先に中に入れてくれる。
「真也の用事何だった?」
「中入って、落ち着いたら話す」
そんな風に言う真也。
玄関で靴を脱ぐと、みゃぁ、と猫の鳴き声。
「雪ー!」
むぎゅ、と抱き締める。雪は真っ白な毛色の猫。
子猫だった時に一緒に拾って、真也のところで飼ってくれることになった子。
「元気だった?」
よしよし、雪を抱っこして撫でながら、リビングへと向かう。
「彼氏とデートって言ってたよな? ……飯は食ってきたよな?」
「……食べなかった」
「何で? こんな時間まで?」
「ちょっとモメちゃって……」
「……仲直りしてきたのか?」
言葉に詰まりながら雪を撫でていると、真也が、ため息をついた。
「お前、今日泊まる?」
「え。いいの?」
「こんな時間に入ってきて、泊まる気、ねえの?」
「明日約束ないの? 彼女とは?」
「無いよ」
「んじゃあ、泊めてくれる?」
「いーよ。じゃあ簡単に飯作っといてやるから、風呂入って温まってこい。もうすぐ入ろうと思って、お湯入れたとこだから」
「ありがと……」
「バスタオルとか服、持ってっとくからとにかく入っとけ」
「うん」
言われるままにシャワーを浴びながら、真也は優しいなあ、なんてしみじみ思う。
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